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東京地方裁判所 平成2年(ワ)12367号 判決 1993年5月31日

主文

一  本訴被告らは、本訴原告に対し、連帯して金一五六二万七六八〇円及びこれに対する平成二年一〇月一二日から完済に至るまで年九分の割合による金員を支払え。

二  反訴被告は、反訴原告に対し、金一万一七六五円及びこれに対する平成三年一二月一八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  反訴原告のその余の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴・反訴を通じ、本訴被告らの負担とする。

五  この判決の第一項及び第二項は、仮に執行することができる。

理由

第一  請求

(本訴)

主文同旨

(反訴)

反訴被告は、反訴原告に対し、八一四万九二三五円及びこれに対する平成三年一二月一八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二〇事案の概要

(略称)以下においては、本訴原告・反訴被告を「原告」、本訴被告・反訴原告有限会社萩設計事務所を「被告会社」、本訴被告高田潔「被告高田」と略称する。

一  訴訟物等

本件は、コンビニエンス・ストアのフランチャイズ・チェーンを経営する原告が、加盟店契約を結んで約一年半の間店舗経営を行つた被告会社とその保証人である被告高田に対して、右契約に基づき貸付残高金とこれに対する訴状送達の日の翌日からの約定金利を請求したのに対し、被告会社が、原告には加盟店契約の締結時及び締結後に背信行為があつたとし、これを根拠として、右契約を解除するとともに、反訴として、支出した費用等につき不法行為に基づく損害賠償を請求している事案である。

二  争いのない事実

1 原告は、昭和六三年一一月一〇日、被告会社との間でサンクス・フランチャイズ・チェーン加盟店契約(以下「加盟店契約」という)を締結し、被告会社は同年一二月七日から、原告の用意した横浜市磯子区《番地略》所在の店舗において、コンビニエンス・ストア「サンクス磯子田中店」の名称で営業を開始した。

2 被告高田は、被告会社の代表取締役であり、右加盟店契約から生じる被告会社の一切の債務につき、連帯保証した。

3 加盟店契約の内容は、概ね次のとおりである。

(一)(1) 原告は、原告が第三者から賃借した店舗を、原告の開発したデザイン、レイアウトに改造して、被告会社に使用させる。

(2) 原告は、被告会社に対し、右店舗において、サンスクの商標、サービスマーク等を使用することを許諾する。

(3) 原告は、被告会社に対し、商品調達、在庫管理、商品販売など店舗経営に関するノウハウ並びに最新の販売情報、消費動向等の情報を継続的に提供し、被告会社はこれを受けて自己の計算により店舗を経営する。

(二)(1) 被告会社は、原告に対し、毎日、磯子田中店における総売上金及び当日のレジ収入額の金額を送金する。被告会社は、右売上金を自己消費してはならない。

(2) 原告は、送金された売上金から、磯子田中店における営業経費(商品代金、従業員給料等)を被告会社に代わつて支払う。

(3) 原告は、被告会社に対し、毎月一回、利益引出金(前月の売上高の六パーセント相当額または五〇万円のうち、いずれか大きい額)を送金する。

(4) 売上金から営業経費、利益引出金等を控除した額が、マイナスとなつた場合は、原告は、被告会社に対し、その不足額を継続して融資する。

(5) 被告会社は、原告に対し、磯子田中店の店舗及び店舗内の什器備品の使用、サンクスの商標、サービスマーク等及び店舗経営のノウハウの利用並びに販売情報、消費動向等の情報提供の対価として、毎月の売上総利益の四〇パーセントに相当する金額(サンクス・チャージ)を支払う。

(三) 交互計算契約(オープンアカウント)

(1) 原告と被告会社は、毎月一日から末日までを一会計期間とし、同期間内に生じた債権債務の総額につき相殺をし、相殺残額が生じたときは、後記(3)のとおり精算する。

(2) オープンアカウントには、原告の債権として、商品仕入高、営業経費、サンクス・チャージ、利益引出金、貸付金、立替金、利息等を計上し、被告会社の債権として、売上高、立替金、投資金額等を計上する。

(3) 原告の被告会社に対する相殺残額については、これに年九パーセントの利息を付して、オープンアカウントに計上する。

被告会社の原告に対する相殺残額については、原告は被告会社に対し、会計期間毎にその九〇パーセントを現金で支払う。

4 右加盟店契約に基づいて被告会社は、加盟保証金五〇万円、加盟金一五〇万円、開店準備手数料一八〇万円、追加保証金三〇〇万円等を原告に支払い、被告高田とその次男高田修(以下「修」という)が原告主催の研修会に出席した後、磯子田中店の経営を始めた。

しかし、毎月の売上は思わしくなく、別表記載のように、原告の被告会社に対する累積融資額が概ね毎月増加していつた。

5 被告会社は、平成二年四月、原告に対し本件加盟店契約を解除する旨の意思表示をし、被告会社による磯子田中店の経営は、平成二年五月三一日をもつて終了した。

6 被告会社は、同年四月二六日から右経営終了日までの毎日の売上金合計一一六〇万九五六五円を送金しなかつた。これをオープンアカウント処理すると、次のとおり、原告は被告会社に対し、一五六二万七六八〇円の相殺残額を有する結果となる。

(一) 被告会社の原告に対する債務

(1) 平成二年五月三一日現在のオープンアカウント貸付残高(うち一一六〇万九五六五円は、売上金未送金分) 一七五九万二一五〇円

(2) 同年六月一日から同月二七日までの立替金合計 九三万九四六〇円

(3) 本件加盟店契約四〇条(2)に基づく解約金(サンクスチャージの平均月額の四か月分相当額) 四一五万三〇一六円 合計二二六八万四六二六円

(二) 原告の被告会社に対する債務

(1) 加盟保証金預かり分 三五〇万〇〇〇〇円

(2) 引継ぎ商品代金(五月三一日の閉店時に、原告が被告会社から引き継いだ商品代金) 三二八万五五〇七円

(3) 引継ぎ消耗品等代金(五月三一日の閉店時に、原告が被告会社から引き継いだ消耗品等代金) 二六万五一四九円

(4) 解約保険料戻し分 六二九〇円 合計 七〇五万六九四六円

(三) (一)と(二)の差引き残額 一五六二万七六八〇円

三  争点

1 原告の被告らに対する背信行為の有無

(解除の効力及び不法行為の成否)

(被告らの主張)

(一)  契約締結に際しての背信行為

原告は、契約締結に際し、一日の売上高がオープン一年後に三五万円であるとの調査をしていながら、「オープン時三五万円、半年後四〇万円、一年後四五万円の売上を保証する」「当初から月五〇万円位の利益がある」「スタート時点から高売上げ間違いないので、他の契約者と公平になるように追加保証金三〇〇万円を上乗せしてもらうことになつている。この追加保証金は高売上げが確実だという証拠だ」「売上金で楽にローン返済できる」などと虚偽甘言を用い、かつ、従来の契約締結店舗数、閉店数、平均日販金額等、契約締結にあたり提供すべき情報を告知しなかつた。また、「三人の希望者がいるので明後日までに決めてくれ。ここで決めてくれないと、開店に間に合わない。プロの言うことを信用してくれ」などと言つて、考える時間を与えず契約を迫つた。

(二)  契約締結後における背信行為

(1) 原告は、契約上は五〇万円でよい保証金を、追加保証金名下に三〇〇万円余分に支払わせたうえ、被告会社の支払金のうち五〇万円の領収関係を曖昧にし、加入不要な生命保険に修を加入させた。

(2) スーパーバイザーが週二回店を訪れて指導をし、指導内容を巡回レポートに書いて渡すことになつている旨聞いていたのに、被告らは、レポートを受け取つたことは一度もなく、スーパーバイザーは一月以上も来店しなかつたことがあり、およそ指導らしきものを受けたことがない。これは、加盟店契約上の情報提供義務、販売への協力・援助義務に違反する。

(3) 高売上の保証にもかかわらず売上が向上しないこと、前記五〇万円の経理や生命保険に関する原告の背信行為について、修が原告に抗議したところ、平成二年二月頃、原告会社の松尾、長田らはこれにつき陳謝し、店舗のレイアウトを変えて特色ある店にし、特売日を設けて、売上が向上するよう協力すること、毎月一〇万円の補助金を出すこと、追加保証金三〇〇万円を直ぐ返還することを約束したのに、これを全く履行しなかつた。

(原告の主張)

(一)  原告が被告らに対して、高売上が期待できるとし、初年度(オープン時ではない)の日販が三五万円位見込める等の売上予測を述べたことはあるが、売上高を保証したことはない。本件契約を締結したのは、被告高田が原告の説明会に来てから約一年後であつて、その間、被告らは、フランチャイズ契約の内容についても、原告から告知を受け、研究・検討していたものである。現に、被告らは他の三店舗につき検討のうえ断つており、本件磯子田中店についても、原告が提供した立地条件等に関する調査結果を参考にして、十分に検討して意思決定している。

(二)  追加保証金は、原告自らが確保した店舗をフランチャイジーに使用させる場合に、保証金、賃料の高低差を調整するため負担してもらつているもので、被告会社は、その趣旨を納得してこれを負担したものである。スーパーバイザーによる指導は行われていた。成績が上がらなかつたのは修の経営努力の欠如による。本件店舗は、被告会社経営の期間ですら、赤字ではなく、純利益を上げているばかりでなく、その後原告が直営店として営業した期間は売上が向上している。被告の主張二(3)の事項について、修から要求はあつたが、原告は約束していない。

2 被告会社の損害

(被告会社の主張)

被告会社は、原告従業員らの不法行為により、次のとおりの損害を受けた。

<1>  保証金 三五〇万〇〇〇〇円

<2>  引継ぎ商品代金 三二八万五五〇七円

<3>  引継ぎ消耗品等代金 二六万五一四九円

<4>  解約保険料戻し分 六二九〇円

<5>  サンクスチャージ一二か月分損害金 一一五〇万三四七六円

<6>  事務所賃借礼金 八万八〇〇〇円

<7>  事務所家賃・共益費 九万一〇〇〇円

<8>  事務所保険料 三五二〇円

<9>  初回現金払い生命保険料 一万一七六五円

<10>  銀行借入金利息 一〇〇万一〇九三円 合計 一九七五万五八〇〇円

右損害金の一部に、未送金の売上金一一六〇万九五六五円を充当したので、これを控除した八一四万九二三五円及びこれに対する反訴状送達の翌日から年五分の割合による遅延損害金を請求する。

第三  争点に対する判断

一  契約締結に際しての背信行為の有無について

1  甲二によれば、被告会社が経営に当たつていた時期の磯子田中店の日販平均は、別紙のとおりであつて、昭和六三年一二月の開店以来平成二年五月の閉店に至るまでの一年半、徐々に上向きにはなつているものの、二〇万円台の半ばから三〇万円にかけての数字に終始したことが認められる。このため、毎月、一〇万円(ただし昭和六三年一二月は、八万二五〇〇円)の販売促進費を加えても、平成元年一〇月、一二月、平成二年四月の三回を除いては、純利益が、赤字もしくは月次引出金の額(昭和六三年一二月を除き五〇万円)を上まわらず、累積融資額(オープンアカウント)が増大していつたものである。

2  証人修は、原告の従業員である高橋、村上、飯田が修に対し、「オープン時三五万円、半年後四〇万円、一年後四五万円の売上を保証する」「当初から月五〇万円位の利益がある」「売上金で楽にローンを返済できる」などという話をして、磯子田中店について加盟店契約をするよう強く勧めた旨証言しているところ、契約希望者に対する説明資料と認められる乙一三には、日販三五万、四五万、五五万の各場合の加盟店の予定利益は一月当たりそれぞれ五〇万、六七万、九二万になるとの記載があり、また、甲一によれば、本件加盟店契約における引出金送金額を五〇万円と定めたことが認められる。もつとも、乙一三は売上と利益のモデルを記載したものにすぎず、磯子田中店についての資料でもないし、他にも右修の証言を直接裏付けるものはなく、むしろ証人松尾博の証言等によれば、原告の調査では、オープン時ということではなく初年度の平均日販が三五万円位見込めるとの売上予測を立てていたことが認められる。しかし、右松尾証言を含め、右修の証言を直接否定する証拠もないのであつて、引出金送金額は予想利益額を念頭において決定されたであろうこと、また後述のように、高橋は修を騙して生命保険に加入させるなどの不正行為を行つた者であることも考えると、高橋らが修の証言に近い言葉で勧誘したこともあり得ないことではないと思われる。

また、追加保証金の件については、後述のとおり本来の趣旨は原告主張のとおりと認められるし、通常の保証金五〇万円に対し三〇〇万円もの保証金の追加を、磯子田中店の売上見込みの良さという説明だけで被告らが納得したとも考え難いから、本来の趣旨に関する説明もなされた可能性が高いが、後にその返還が問題になつていることからすると、同時に、これをも高橋らが磯子田中店の売上見込みの良さの証拠の一つとした可能性も否定しきれない。

3  しかしながら、まず第一に、被告会社は建築設計以外に化粧品、健康器具等の販売も行つていて、店舗を構えていたこともあり、また被告高田の妻は化粧品販売会社の代表者であり、さらに店舗の実際の経営に当たる予定であつた修も、本件契約の半年位前に原告の加盟店で九か月間アルバイトをしていたことがあるのであつて、被告らは販売業について全くの素人とはいえない者達である。そうした被告らであつてみれば、高橋らが仮に「保証」という言葉を使つたとしても、一般消費者を対象とする小売店の売上高が「保証」できるような性質のものではなく、いわゆるセールストークとしてありがちな強い表現を含んだ、経験的な予測値に過ぎないことは十分理解できたはずである。現に、修は、説明会で五〇万から七〇万円の利益の出る店を紹介してくれるということではあつたが、それは努力次第ということであつた旨、また、磯子田中店がそれほど高売上の期待できる店舗であるとは思つていなかつた旨、証言しているばかりでなく、被告らは、磯子田中店について契約する前に、原告から提供した藤沢本町店を実地検分のうえ断つてさえいえるのであつて、原告従業員らのセールストークを鵜呑みにしていたとは、とうてい思われない。

さらに、修の証言によれば、同人らがサンクスのフランチャイジーになることを決意した理由として、一二五万円の最低保証制度があつたことが重要な要素になつていたと認められるのであるが、被告会社経営期間中、右最低保証制度が適用されたのは平成元年二月と四月の二回で、その月の売上高は日販二三万円台であることからしても、右制度に期待していた被告らが、最初から日販三五万円が確実であると信じたというのは辻褄の合わないきらいがある。

4  また、《証拠略》によれば、磯子田中店が被告会社の経営から原告直営(平成二年六月から一〇月)、岩平の経営(同年一一月以降)に変わつて以後、同店の日販は三〇万円台後半から四〇万円前後をコンスタントに維持しているのであつて、競合店舗の閉店の影響があつたことを割り引くとしても、磯子田中店は経営の仕方によつては、三五万円程度の日販を上げ得る可能性をもつた店舗であつたと認められる。

にもかかわらず、被告会社経営時期に売上が伸びなかつたことについては、商品在庫が開店当初に比べて大幅に少ない水準で推移している点に見られるように、品揃えの不足、修の経営姿勢の消極性の影響が疑われざるを得ない面がある。

5  被告らは、高橋らが修らに十分考慮・検討する機会を与えず契約を迫つた点で、勧誘方法に違法性があると主張するが、契約締結に至る最終段階で高橋らに所論のような早急な判断を促す言辞があつたとしても、磯子田中店の話があつたのは、修の証言によれば、被告高田が原告の説明会に参加した昭和六二年一二月から約一〇か月経過した昭和六三年一〇月初め頃であつて、その間、前記藤沢本町店の他に駄目になつた二か所の店舗の話があり、磯子田中店についても、修は現地に出掛けて周辺の状況や競合店の存在も確かめ、両親(被告高田とその妻)とも相談したうえで、一一月三〇日に契約していることが認められるのであるから、高橋らから急がされて十分考慮・検討する時間的余裕のないまま、軽率に契約を結んだという状況ではない。被告らの右主張は理由がない。

6  次に、被告らは、原告には契約締結にあたり従来の契約締結店舗数、閉店数、平均日販金額等の情報を被告らに対して提供すべき義務があつたのに、右のような情報を提供しなかつた違法があるという。

しかし、右のような情報の提供は、例えば閉店数が非常に多いような場合は契約締結を慎重ならしめる効果があるかもしれないが、それ以上のものではないし、平均日販金額等は店舗によつて差がある。本件のようなコンビニエンス・ストアのフランチャイズ・チェーン加盟契約をいわゆるマルチ商法と同一視することは相当と思われないのであつて、本件の場合、契約内容及び個々の店舗の条件等の開示が行われていれば(本件加盟店契約前文・記<1><2>)、フランチャイジー希望者において契約を結ぶべきかどうかを判断するに通常必要な情報は与えられているものと考えられるから、契約締結にあたり、前記のような情報を積極的に告知すべき義務があるとは解されない。

7  よつて、本件契約の締結に際しての勧誘の方法等において、原告に背信行為というべきほどの行為があつたとは認められない。

二  契約締結後における背信行為の有無について

1  高橋が、本件加盟店契約や原告とは関係がなく、被告らにおいて加入する義務がない生命保険契約につき、あたかも加入の必要があるかのような嘘を言つて修を加入させたこと、被告会社が高橋に支払つた金員のうち五〇万円が原告会社に入金の扱いになつていなかつたことは、原告も争わないところである。

こうした原告従業員の不正行為が、被告らの原告に対する信頼感を低下させるものであることはいうまでもないが、これについては、被告会社による本件加盟店契約の解除の意思表示以前に是正の措置がとられているばかりでなく、右不正行為と本件加盟店契約の内容自体とは直接の関係がなく、本件店舗の売上不振につながるものではない。

2  前述のように、高橋らが追加保証金三〇〇万円について、磯子田中店の売上見込みの良さの証拠の一つとした可能性は否定しきれないけれども、《証拠略》によれば、追加保証金は、原告自らが確保した店舗をフランチャイジーに使用させる場合に、保証金、賃料の高低差を調整するためのものと認められるのであつて、合理性を欠くものとはいえないから、これを支払わせたこと自体は不当といえない。

3  本件加盟店契約によれば、原告は被告会社の販売に協力、援助するため、店舗に担当者を定期的に派遣して、店舗の管理、品揃え、商品の陳列・発注、従業員の管理、販売の状況等を観察させ、必要な指導・助言を行い、また経営上生じた諸問題の解決に協力するとともに、最新の販売情報、消費の動向、商品の動向分析等の資料の提供及びサンクス・システム情報の伝達を随時行うこととされている。

修は、スーパーバイザーが週二回店を訪れて指導をし、指導内容を巡回レポートに書いて渡すことになつている旨聞いていたのに、スーパーバイザーが来たのは月二、三回程度で、一回も来ない月が三か月あり、書面は一、二枚をもらつただけである旨証言しているところ、確かに、証拠として提出された巡回レポート及び基本項目チェック表は、被告会社の経営期間中のものとしては、それぞれ一四枚、三枚にすぎない。この点から見る限り、少なくとも書面による指導・助言は、説明通りには行われていなかつた疑いがあるが、松尾証言によれば、週一回ブロック会議でスーパーバイザーから各店舗の状況報告がなられていたこと、一日のうち修が店舗にいない時間帯がかなりあつたことが認められるから、巡回自体は、修の証言よりずつと頻繁に行われていたものと認められる。また、《証拠略》によれば、平成元年四月に、磯子田中店の四か月検証が行われていることが認められる。

そして、本件加盟店契約上は、必要な限度で実質的に指導・助言及び情報提供がなされれば足り、必ず一定回数以上の巡回や書面の交付が行われなければ、直ちに契約違反となるものではないと解される。

4  《証拠略》によれば、高橋、松尾を始め、原告従業員らが、五〇万円の経理や生命保険に関する高橋の行為について陳謝するとともに、追加保証金三〇〇万円についてはネオCへ切り換えることによつて返還すること、店舗のレイアウト変更、特売日の設定等、売上向上の策を講じること、毎月一〇万円の販売促進費を追加支給することについて、被告会社に対し提案を行つていたことが認められるが、右三〇〇万円を無条件で直ちに返還することやその他の改善策を直ちに実施することを約束したことまでは、認めることができない。(右約束があつたとする修の証言は裏付けを欠き、これのみでは右約束を認めるに足りない)。

三  解除の効力及び不法行為の成否について

1  解除の効力

以上のとおり、五〇万円の経理及び生命保険に加入させたことに関しては原告に非難すべき事由があるが、その他の点については、背信行為と評価すべきほどの事実は認められない。

ところで、本件加盟店契約四二条によれば、原告に被告会社に対する重大な不信行為があつたときは、被告会社は右契約を解除することができるとされているところ(原告の側で本件加盟店契約を締結するにあたつて、甲六ないし九によつて認められるような多額の先行投資を行つていることなどを考慮すると、解除事由を重大な不信行為の場合に限つていることは合理性がある)、右五〇万円及び生命保険の件については、前述のとおり、被告会社による本件加盟店契約の解除の意思表示以前に是正の措置(後記一か月分の生命保険料の点を除く)がとられているばかりでなく、右不正行為と本件加盟店契約の内容自体とは直接の関係がないから、これのみで重大な不信行為があつたとすることはできない。

したがつて、本件解除は無効である。

2  不法行為の成否

(一) 被告会社が反訴として請求する損害賠償のうち、初回現金払い生命保険料については、《証拠略》によれば、被告会社は平成元年二月から一二月まで一一か月分の保険料を支払い、一〇か月分の弁済を受けて一か月分一万一七六五円が未払いになつていると認められるところ、右は、原告の被用者である高橋が原告の事業の執行につき被告会社に与えた損害と認められるから、原告はその賠償責任がある。

(二) サンクスチャージ一二か月分は、本件加盟店契約四三条、四二条に基づくものと解されるが、前記のとおり四二条の解除事由は存しないから、右請求は理由がない。

(三) その他の損害については、本件加盟店契約をめぐる原告の行為を全体的に不法行為ととらえて、その賠償を求めるものと解されるが、前記のとおり、五〇万円の経理及び生命保険に加入させた点を除き、背信行為と評価すべきほどの事実は認められないから、右不法行為の成立は認められない(引継ぎ商品代や引継ぎ消耗品代は、責任原因を別としても、損害を構成するかどうかも疑問であるが)。

四  結論

よつて、原告の本訴請求は理由がある。また、被告の反訴請求は、一万一七六五円及びこれに対する遅延損害金の限度で理由があり、その余は理由がない。

(裁判官 金築誠志)

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